もうすぐクリスマスですね [小話]
というわけで、前回のSSの続きです。
クリスマスの一週間ぐらい前のお話です。
※話題だけですが、陰之の飼い主さんのところの、陰之さんをお借りしました。
お名前は、出てきません。
今回も短く何も起こりませんが(おい)、以下からどうぞ。
クリスマス手前のある日
ラヴィーナは仲居の仕事が終わって自宅に帰ると、玄関で撃沈した。帰り道で煌びやかなイルミネーションに見とれていて、少し帰りが遅くなってしまった。仕事はやりがいがあるが、気を張って疲れる。
暖房の効いた中の間のコタツで過ごしていた居候のコバルトとノアは、ラヴィーナの「ただいま」を聞いて「おかえり」と返したものの、ラヴィーナはなかなか部屋に現れなかった。
写真の整理をしていたコバルトが渋々コタツを出た。
「ちょっと見てくるよ」
「うん」
コバルトの予想通り、ラヴィーナは玄関で伸びていた。
「お疲れ、ラヴ」
「う”あ”あ”あ”あ”あ”」
コバルトは「しょうがないな」とため息を吐きながら、ラヴィーナを肩に抱えてラヴィーナの部屋に連れて行った。
コバルトがコタツに戻ってしばらくすると、よそゆきの着物から甚平に着替えたラヴィーナが、自慢の回復力で若干元気を取り戻して中の間に入ってきた。
コバルトはコタツでノートPCと一眼レフをいじっており、ノアはうつぶせに寝転んでタブレットPCに向かって何やら記事を書いていた。家の中はやはり暖かい。
「アイスクリーム食べよ」
ラヴィーナは冷蔵庫に直行した。日本では、冬にコタツでアイスを食べるのが乙な文化らしい(当社調べ)。
異国育ちのラヴィーナは、大和撫子を目指しつつ、四六時中大和撫子を演じ続けるのは無理だ、と思っている。それにしても、甚平の過ごしやすさには感激している。だから冬でも寝るときは甚平だ。居候も最初は驚いていたが、すぐ慣れた。
ラヴィーナはコタツに入ってアイスクリームを食べ始めた。
「ねえ、ノア君」
「何?」
ラヴィーナに呼びかけられて、ノアは首を捻った。
「冬って、自然はお休みじゃない? 書くことあるのかしら?」
ノアは自然や環境についてのライティングを主な仕事にしている。
「そんなことか。雪が降るじゃないか。立派な自然現象だ」
「雪について書くの? なるほどー」
「『雪は天から送られた手紙である』といった物理学者がいてね。調べてみるとなかなか奥が深いよ」
「物理学? ……って、どんな学問なのかしら?」
「……僕は専門外だね。ハハハ、でもなんとかなるよ」
「ノア君は楽観主義ね」
ラヴィーナはコバルトに目を向ける。
「蒼兄、物理学って何?」
「宇宙と語らうための言語だよ」
「ごめんちょっとよくわからない」
ラヴィーナは、名案を思いついて言った。
「蒼兄は、ノア君に雪の写真を撮ってあげるといいんじゃない?」
「そうだね」
コバルトは気のない返事をしつつ、ふと手を止めた。
ラヴィーナはコバルトが良い写真を見つけたのだ、と思ってモニターを覗き込んだ。
紅いぽっくりが一足写っていた。
「い、いつの間に撮ったの……それ」
コバルトは、「誰かの想い」が渦巻く被写体を撮っている、と言っていた。
何か感じたのだろう。ノアが音もなくコバルトの背後に移動していた。
「ラヴ姉さんのお気に入りのぽっくりじゃないか」
「そうよ。これはね、旅館のお得意様からいただいたクリスマスプレゼントなのよ。ノア君がうちに来る前のことよ」
「へえ」
「何かお返ししなくちゃと思ったけど、頑張っておもてなしすることしかできなくて、少し気がかりね……」
コバルトは言った。
「ラヴはきっと、その人のことが好きだね。そう思って撮った」
どう言う意味の好きなのか、コバルトは言及しない。
まだ、大切だとか、強い憧れだとかには至らないが好ましい、と感じる段階のことを、コバルトはさらりとその一言で片付けるところがある。
ラヴィーナは少し頬を染めて笑った。
「いやねえ。まあ好きか嫌いかと訊かれたら、好きな方よ。優しい方だし、大人びていて、知的で。お連れの方も素敵だったわ」
実はちょっとした事件もあったが、それは話さないことにした。お客様のプライベートなことだと思ったからだ。
「きっとこのぽっくりは、妖怪になるね。幸せな妖怪に」
コバルトは冗談にもまじめにも受け取れるように言った。
「そういえば、その方は不思議なものを惹きつける体質って、聞いたわ」
「へえ、それは興味深い」
ラヴィーナは、突然こみ上げた欠伸を抑えることができなかった。
「ふあ……あ。私、もう寝るわ。明日も早いし」
「おやすみ」
三匹は口々に言う。
入浴は旅館で済ませてある。ラヴィーナはアイスクリームのからの容器を捨てて、寝室に戻っていった。
END
ただ、ただ、日常です。
ラヴは、寒くないんでしょうかね。
まあ、甚平は寝巻きです。
日中はちゃんとした着物を着ています。
誰か訪ねて来るかもしれないですからね。
続きがあるといいな、と希望的観測をしながら、
ここまでお読みくださってありがとうございました。
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